あなたの大切なもの

 人は守りたいものによって、生き方が異なるのだと思う。

 私の友達は子どもができてから、以前よりもしっかりして母親らしく生活している。夫と子どもの食事に対して、責任と愛情を持っている。また、彼らが心地良く過ごせるように、日常の家事をこなしている。

 私はどうだろう。

 気ままな一人暮らしで、生きるために仕事をしているのか、仕事をするために生きているのか分からない生活をしている。守りたいものや固執するものなどはない。「幸せになりたい」というような願望も特にない。

 去年、私の病気が発覚した時、知り合いに話の流れでその病名を伝えた。彼女は一瞬、表情を曇らせて「その病気、人にうつるの?」と聞いた。彼女はその時、妊婦だったから、自分の子どもへの感染を恐れたのかもしれない。幸い、私の病気は感染するものではないのだけど、昔のハンセン病患者などはこういう気持ちを抱いたのかもしれないなあと私は複雑な気持ちになった。

 人は良くも悪くも一人ではなく、誰かしらと関わって生きている。自分の大事なものによって、自分の価値が決まるというわけではないけれど、何も守るもののない私は宙ぶらりんな気持ちではある。

 

 というようなことを山田くんに話した。話しても意味のないことだとは思ったけれど、何となく今日は言わずにはいられなかった。

「あなたらしく生きているのだから、余計なことは考えなくてもいいんじゃないですか?」

と、山田くんは言った。

「病気だって、人に迷惑をかけているわけではないし。先輩が具合悪くなると、僕は心配しますが、そういうのは迷惑とは違うし。それより、美味しいおはぎがあるので、緑茶を入れます。美味しいものを食べると元気が出ますよ」

と言って、彼は台所へ向かったので、私もその後について行く。

 山田くんは気楽な人だなあと思って、何気なく、その広めの背中に頬をくっつける。ニットの上からだったけれども、彼の体温が感じられた。私の守るべきものは山田くんではないとしても、この体温に触れることができるなら、もう少し生きてもいいかな、と思えた。