節分

 ここ数年、カレンダー上の行事を気にしないで生きていた。

 そもそも、私は数字に関する記憶力がおそらく他の人よりも劣っていて、誕生日や記念日などを全く覚えられない。

 

 昨日は締め切りに追われて仕事をしていたら、山田くんが家にやってきた。

「先輩、恵方巻持ってきたんで、一緒に食べましょう!」

「やれやれ、今日は節分ですか」

 山田くんのバッグには、恵方巻と豆とケーキが入っていて、私は温かい緑茶を入れる。

 

「南南東はあっちですか? 食べてる間は喋っちゃダメですよ」

 ヘンなところが真面目な山田くんは、黙って恵方巻を頬張るけれど、私は何だか気恥ずかしくなって、一口食べては「サーモンも入っているね」とか「中の卵焼きが甘すぎる」とか、話してしまう。そんな私の言葉も聞こえないふりをして、彼はもぐもぐと口を動かして一生懸命食べている。一体何を考えているのだろう。

 

 恵方巻の後はデザート、ティラミスのケーキ。洗練された店のものではなく、とてもシンプルだけれど嫌味ではない作りをしていた。山田くんは私よりも甘いものが好きだ。

 ケーキの角をフォークですくって、にっこりと、彼は私の目の前に差し出す。

「はい。どうぞ」

 私は一瞬、ひるむけれど、ゆっくりとフォークに顔を近付け、私の口のサイズに切り取られたケーキを唇ですくい取る。ふわふわとしたスポンジ生地とコーヒーっぽいクリームの味がした。

 目を上げると、山田くんはびっくりした顔をしていた。まさか、私が素直に受け取ると思っていなかったのだろう。彼のぽかんとした顔は、何故かあの黄色と黒のしましまの間抜けな鬼のパンツを想起させた。